千葉県山武郡横芝光町には、千葉市と銚子市のほぼ中間にあり、JR総武本線の横芝駅から車で五分、南を九十九里浜に面した何の変哲もない小さな町である。
この町に虫生という変わった名前の地区がある。戸数わずか二十五戸。後ろに小高い丘を背負い、平坦な田畑の中に農家が点在する。ごくありきたりの農村だが、この地区に「広済寺」という、新義真言宗智山派の寺院があり、ここに俗に「鬼来迎」または「鬼舞」とも呼ばれる、古風な仏教劇が伝承されている。
広済寺は、杉木立に囲まれた仁王門をくぐると、正面に本堂があり右手に古い地蔵堂があった。あったというのは、昭和四十六年秋、堂の背後に切り立った山が崖崩れを起こして、地蔵堂を押しつぶしてしまい、今は跡形もなく、荒々しい山の地肌が迫っている。この地蔵堂が鬼来迎の舞台であったのだが、今はお堂の跡に仮設の舞台を架けて演じている。
舞台は間口六間、奥行三間、下手に「死出の山」と称する櫓を設け舞台から梯子をかけ、周囲はそれらすべてをかくすように、いっぱいの枝葉でおおう。
楽屋は本堂の縁を使用し、ここで仮面、衣装をつけた役者は、出番になると、ジャランボンの鐃鉢と「ホッホッホー」の奇妙な掛け声と共に「死出の山」の作り物の後ろを通って舞台に出る。
演者はすべて地区の人たちで、舞台架けから衣装などの整備もすべて行い、賽の河原にでる子供の亡者役にだけ女の子がまじる。
|